福岡高等裁判所 昭和54年(ネ)617号 判決 1980年7月03日
控訴人
吉村アクチブ産業株式会社
右代表者
吉村英輔
右訴訟代理人
國武格
同
八谷時彦
被控訴人
森川照男
右訴訟代理人
小泉幸雄
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
原判決主文第一ないし第四各項を一項宛繰り下げ、原判決に主文第一項として「原告の主位的請求を棄却する。」を加え更正する。
事実《省略》
理由
一当裁判所は、被控訴人の主位的請求を認容せず、進んで、予備的請求を原判決が認容した範囲で正当として認容すべきであるとするものであつて、その理由は、次のとおり附加し、改めるほか原判決理由説示(原判決六枚目―記録一六丁―表一行目から原判決一六枚目―記録二四丁―裏二行目「棄却すべく、」まで及び原判決添付図面)の記載と同一であるから、これを引用する。
1 原判決八枚目―記録一八丁―裏二・三行目の「爆発するように燃え上がり」と四行目の「爆発状態で燃え上がり」をいずれも「爆発し」と改める。
2 原判決一〇枚目―記録二〇丁―表一一行目の後に行を改めて次のとおり加える。
「(一) 被控訴人は、主位的に民法七一七条一項に従いガス容器を所有、占有していた控訴人に対し本件事故による損害賠償を請求し、予備的に民法七〇九条に従い過失のあつた控訴人に対し本件事故による損害賠償を請求する。ところで、「失火ノ責任ニ関スル法律」(以下、失火責任法という。)は、「民法第七百九条ノ規定ハ失火ノ場合ニハ之ヲ適用セズ」と規定するから、同法にいう「失火」の場合には民法七〇九条にいう過失すなわち抽象的軽過失は免責され、重過失又はこれと同視すべき故意のあつたときに限つて不法行為責任を負うと解するのが相当である。失火から延焼する過程でガスを誘爆させ大損害が生じても、失火責任法により軽過失が免責されることはいうまでもない。しかし、失火責任法にいう「失火」とは「過テ火ヲ失シ火力ノ単純ナル燃焼作用ニ因リ財物ヲ損傷滅燼セシメタル場合」を意味する(大審院大正二年二月五日判決民録一九輯五七頁参照)のであり、発火そのものが火薬、ガス類の爆発によるときにまで失火責任法が適用されるとはいえない。蓋し、火薬やガス等の危険物を取り扱う者には高度の注意義務が課せられていると解すべきであり、失火責任法の立法趣旨の重要なひとつも火事は失火者自らの財産も焼失させてしまうのが普通であり、各人が注意を怠らないのが通常であり、過失につき宥恕すべき事情のあることが多いことにあるので、発火そのものがガス爆発によるときには、たまたまその火災により他人の財物を焼燬させたとしても当初から失火責任法の適用範囲外にあると解するのが相当であるからである。
(二) 被控訴人は、先ず、本件プロパンガス容器は土地の工作物であると主張するが、本件のように常時頻繁に取り替えられていたガス容器を土地の工作物であると解することは困難であるから、本件プロパンガス容器が土地の工作物であることを前提とする被控訴人の主位的請求は、認容の限りでない。」。
なお、原判決一〇枚目―記録二〇丁―表一二行目から同裏二行目までを削り、同裏三行目「(二)」を「(三)」と改める。
3 同一一枚目―記録二一丁―表六・七行目の「乙第九号証」の次に「、弁論の全趣旨によつて成立を認める乙第一三号証、当審証人郡島典昭の供述及びこれによつて成立を認める乙第一四号証」を、同八・九行目の「取り付けるので」の次に「金具が完全にねじ込まれている限り」をそれぞれ附加する。
4 同裏一行目から三行目までを次のとおり改める。
「さすれば、原判決添付図面表示の上牟田更科こと被控訴人店舗西側に控訴会社の設置したプロパンガス容器六本中南端にあつたものが上牟田更科裏露地側(西側)に向つて倒れ、同容器の弁のところから音を立てて急激に噴き出したガスが数分後幅約1.6メートルの右露地内に充満し、開いていた裏口から更科店内に進入引火して爆発し本件事故に及んだのであつて、本件火災事故は、控訴人がプロパンガス販売業者として被控訴人に対しプロパンガスを供給するにあたりその安全性に配慮すべき業務上の注意義務を怠つた過失に起因したというべきであるから、控訴人は、本件火災事故により被控訴人が被つた損害を賠償する義務がある。蓋し、引火とガスの爆発とは同時に生じたと認められ、引火し易く危険性の高いプロパンガスの製造販売を業とする控訴人が転倒防止のための鎖等を取り付けることなくプロパンガス容器を不安定な状態に設置し、かつプロパンガス容器にホースを完全に取り付けなかつたのは業務上の過失に該当すると解するのが相当であるからである」。
5 原判決一四枚目―記録二四丁―表一一行冒頭から「請求は、」までを「してみれば、被控訴人の本件主請求は、その前提を欠き失当として棄却すべきであり、被控訴人の本件予備的請求は、」と改め、同裏二行目「棄却すべく、」を「棄却すべきである。」と改める。
二よつて、被控訴人の主位的請求を棄却し、同予備的請求の一部を認容した原判決は、相当であり、本件控訴は、理由がないから民訴法三八四条に従いこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき同法九五条、八九条を適用し、原判決主文に主位的請求棄却の趣旨が表示されていないことが誤謬であることは原判決に照らして明白であるから、主文第三項のとおり更正すべきものとして主文のとおり判決する。
(園部秀信 美山和義 前川鉄郎)